〔おすすめテキスト〕社会学の院試対策勉強法

勉強方法

 ここでは、社会学系の大学院修士課程の院試で課される問題について、私の院試での経験をもとに、どのような問題が出るのか、また、どのような本が参考になるのか、などを紹介していきます。公務員試験などで社会学を勉強しなければならない人にとっても、有用な情報です!社会学を扱っている本は山のようにあります。そのなかで、いったいどの本をみて勉強していけばよいのでしょうか?一緒に見ていきましょう!

 超初学者向けの社会学の本を紹介したページや、実は中級者向けの社会学入門書を紹介したページもあります!ぜひこちらもご覧ください!

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理論・学説史が出がち

 問題として出がちなのは、理論や学説史に関係する事柄です。というのも、採点する側として、おそらくこれが一番採点しやすいからだと思います。といいつつも、調査関係の用語の説明が出てくる場合や、社会調査の調査設計をする問題が出る場合、量的調査の結果をまとめたグラフなどから何かしらを読み取る問題が出る場合なんかもあります。ここからは、それぞれのタイプに合わせて、私が使っていた書籍の紹介も含めながら、どのように対策していけばいいのかについて、見ていきましょう。

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理論・命題

 これが問題で問われるものとしては、一番大きいように思います。たとえば「感情労働とはなにか」、「大衆社会とはなにか」、「伝統指向/内部指向/他者指向とはなにか」といった問題です。

 形式としては、200字程度の論述で説明させるところもあれば、もっと大きな文字数で書かなくてはならないところもあります。大規模な論述の場合だと、たとえば「近代化」や「個人化」など、複数の学者・論者がそれについてそれぞれの論を展開しているテーマが選択されがちなように思います(それぞれを比較しながらかけるため、自ずと文字数が多くなるから)。

『社会学の力――最重要概念・命題集』(友枝敏雄・浜日出夫・山田真茂留編、2017)

 理論や命題の参考書として、わたしが一番使っていた、かつ気にいっている本です。比較的新しい本で、70個の概念・命題が収録されています。一つの概念・命題につき4pと決まっているので、その分一つ一つの中身がそれほど濃いわけではありませんが、院の試験で要求されるレベル(誰の概念?、どんな本に載ってる?、どんな内容?、その概念は何を含意しているの?)くらいは、ほとんどの項目で載っています。私自身は、それぞれの概念・命題にに対するこのような基本的な情報を、取りこぼさないように、ノートにまとめながらインプットさせていっていました。

 それぞれの概念・命題をそれぞれの専門家が書いているパターンの本なので、それぞれのつながりや、文体の違いはあったりします。なので、欠点を挙げるとすれば、概念・命題よって、とてもわかりやすいところと、すこしわかりづらいところ(その概念自体がというより、文章自体がという意味)があるところでしょう。

 また、これはいい点でもあり、もしかすると悪い点かもしれませんが、社会学に関する概念・命題をまとめている割には、その説明の中で社会学以外の学問(経済学や政治学など)がそれなりの分量の参照されている部分があり、大学院の入試には一見必要のない知識も得ることが出来ます。しかし、それが他の領域も含めたどのような文脈で登場した概念・命題なのかを知っておくことは、損ではありませんし、この点については、私はむしろいいなと思っています。

『命題コレクション 社会学』(作田啓一・井上俊編、2011)

 私が持っている文庫版は2011年に出ていますが、元々は1986年に出版されたものなので、それなりに古い本です。しかし、社会学関連の命題を集めたものとしては、むしろ一番有名なのかもしれません

 これも先のものと同様、それぞれの命題を、それぞれの研究者が書いているスタイル。全部で48の命題が収録されています。欠点を挙げるとすれば、これが出たのが古いので当たり前なのですが、比較最近の有名な学者・概念たちが収録されていません。編者の井上も文庫版へのあとがきで述べているように、「ブルデューやギデンズ、ベックなどの命題が入っていない」(p.424)。現代の大学院入試では、これらの学者たちの議論が出ることは多い気がするので、これ一冊ではもしかすると試験に対応できないかもしれない気がします。その意味で、先に挙げた『社会学の力』とセットで使うことを、おすすめします

『社会学用語図鑑』(2019、田中正人編著・香月孝史著)

 一見安っぽいというか、たいしたことなさそうな見た目をしている本ですが、かわいい(?)イラスト付きで社会学の用語を説明してくれる良書。扱われる用語・学者がとにかく多く、何となく名前知ってるけど実際なにした人かわからない、みたいなのを調べるのにも使えます。

 一つ一つの項目はイラストもあるので深い解説があるわけではありませんが、イメージには残りやすい。何より、出てくる学者の簡単な紹介ページがあることと、各用語のところにその簡潔な意味と、どの文献に乗っているのか、誰がいったことなのか、が書いてある場所があり、これがとてもいいです。じっくり読むというより、パラパラめくりながら、そういえばこれもあったなみたいな感じで使うのがいいかも。値段もそんなに高くないので、一冊もっていて損はない本だと思います!

学説史

 これは内容が理論・命題と被ることが多いです。しかし、それ自体として知っておいて損はない内容だと思います。

『社会学の歴史Ⅰ――社会という謎の系譜』(奥村隆、2014)

 近年出版された本で社会学史をコンパクトに参照するなら、この本がいいと思います。Ⅰは、コントから始まり、マルクス、デュルケーム、ヴェーバー、ジンメル、シカゴ学派、ミード、パーソンズ、マートン、アドルノ、フロム、マンハイム、エリアスなどの社会学者が登場。Ⅱがずっと出ないことで社会学界隈では有名な本なので、これ以降の学者についてはこの本で整理することは出来ません。

 コンパクト、かつそれなりにわかり易くそれぞれの立ち位置や学説などを整理することが出来ます。すべての章を奥村先生1人で書いている、という点も、いい点だと思います(文体が急に変わったりしないし、ほかとの接続が込々で文章が書かれているから)。

『社会学の方法――その歴史と構造』(佐藤俊樹、2011)

 もう一つは佐藤俊樹先生のこの本。『社会学の方法』というタイトルがついていますが、第1章から第8章までは、社会学者をそれぞれ一人ずつみていくという、本の前半部分は実質的な社会学史の内容です。なので、社会学史を知ろうとして読むなら、1章から8章まででいったんいいと思う(どうせ社会学系の大学院に行くなら、序章・終章もとても面白いので、併せて読んでおくといいかも)。

 出てくるのは、デュルケーム、ジンメル、ウェーバー、パーソンズ、マートン、ルーマン。特に、デュルケーム、ジンメル、ウェーバーがそれぞれどんな立ち位置なのかとか、パーソンズ→マートン→ルーマンの流れが、どこがどう受け継がれてて、どこが受け継がれてないのか、などの部分がクリアになってとても参考になります。これも奥村先生の本同様、佐藤先生1人で書き上げているのも、読みやすくて、いいポイントだと思う。ちなみに、9章以降は、グッと難しさが上がります(私の読解力のなさが原因ですが)。院試という観点で言えば、個人的には9章以降は読んでも読まなくてもどちらでもいいと思います。

総論系

『新版 社会学』(浜日出夫ほか、2019)

 このほかにも、社会学には「家族社会学」とか「都市社会学」とか「文化社会学」など、さまざまな下位分野が存在しています。それらについて、一つ一つの専門書を読むことに越したことはないですが、なかなか時間もないですし、全体的なことを手っ取り早く知りたい。そのような方のためにおすすめなのが、有斐閣が出版しているこのテキストです。近年新版が出され、内容もより現代社会に寄り添ったものになりました。

 このテキストには、社会学が扱う様々なトピックがずらっと掲載されています。そのため、通読するというよりは、辞書・事典的に使う方がいいかもしれません。

『社会学 第五版』(アンソニー・ギデンズ、2007)

 しかし、社会学を扱った辞書的な本といえば、世界的にみればこの本が有名です。現在の世界でもっとも有名な社会学者といっても過言ではないイギリスの社会学者であるアンソニー・ギデンズが出しているテキストです。これはまさしく辞書。日本語訳がよくわからないという声もたまに出る本ですが、何よりそのボリュームと質はある意味で最高品質でしょう。

 日本語版は第五版までしか翻訳されていませんが、実は原著は現在でも順調に版を重ねており、最新版はおそらく9版です。日本語訳バージョンは、割と「堅苦しい大著」という雰囲気なのですが、原著の方はもっと外国のテキストらしく、写真なども掲載してあります。わかり易さでいったら原著の方がいいかもしれません。英語の勉強にもなりますし。

 翻訳バージョンにしても原著にしても、とても有名な本ではあるので、一冊もっておいて損はないかなと思います

調査・統計系

 案外調査や統計にまつわる語句について問われることもあるため、これらも知っておいて損はないと思います。私が使っていたのは、『新・社会調査へのアプローチ――論理と方法』(大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋編著、2013)という本です。これは学部時代の必修の教科書だったから持っていたという経緯で使っていました。社会調査全般のことについて一通りまとまっていますが、通読する系の本でもありません。あまり得意でない分野のところをパラパラ読む感じでした。別にこの本に限らず、調査全般を扱った本はたくさん出ているので、何か一冊は持っておくといいかもしれません(逆に言うと、調査・統計系の知識については、必修の授業の教科書などで、十分対応できると思います)。

 実際の院試では、質的調査・量的調査の突っ込んだ内容については、おそらく出題されることはそんなにないように思われます。ただし、調査設計をやらせる問題などが出る場合は、それに合わせた対策、というか練習が必要かもしれません(その場合も、おそらくそこまで突っ込んだ書物を用意しなくても対応していける場合が多いと思う)。

案外授業で得た知識が重要に

 社会学の専門科目試験を解いていて思ったのは、案外それまでとっていた授業で扱った知識が重要になるということ。「社会学概論」や「社会学原論」、「社会学史」、「社会学理論」、「現代社会論」などの名前が付く授業は、おそらく理論や命題、学説史の勉強になるし、社会調査系の授業も、そのままその知識が使えるものになります。特に調査関連の知識は、私の場合は書籍からというより、授業で得たものの方が、自分の身になっていた気がします(おそらく調査系の授業はSPSS等での作業を伴うので、その分体感としていろんなことを理解できていたのかなと思う)。

 いわゆる連字符社会学(○○社会学と名の付くもの。都市社会学、文化社会学、法社会学、労働社会学など)については、理論・命題・学説史の勉強でカバーできる要素もあるが、そこでカバーできないものに関しては、正直そこまでで何らかの方法で得てきた知識に依存します。その際、そういった授業をとっていた経験が試験で生かされることも多々あります。そのため、もし残っているのなら、過去に受けたことのある社会学系の授業のノートやプリントなどを見返してみることも、お勧めします!

さいごに

 社会学は、たとえば社会運動論など、それなりに体系的に学習することが出来るところもあれば、ぽつぽつといろんな人がいろんなことを言ってるだけ、みたいな領域も数多く存在します。そのため、もしかするとそのぶん勉強が難しいかもしれませんが、逆に言うと、それぞれの概念の縦・横のつながりが希薄なので、ピンポイントで覚えていれば解ける問題が多く出るといえる気もします。いずれにせよ、もし社会学で院試を受ける人がいたら、勉強頑張ってください!

 一次試験で課される英語の対策についても、↓の記事で書いています。よろしければ参考にしてみてください!

 

 このほかにも大学院入試に関する様々なコツをまとめています!まずは↓の記事を見てみてください!

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